「急急如律令」

これは、中国漢代の公文書の末尾に書かれていた決まり文句で、

「急いで律令の如く行え」という意味で、『急いで事を成せ』という命令句です。

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 呪文の最後に使われる決まり文句で
その全文に「この〇〇を早く殺して下さい」と呪いが入ります。

陰陽師が用いた主な呪文や真言は、道教や密教、修験道に由来しています。
陰陽師が使用していた呪文は主にふたつあり、どちらも有名です。

呪文方法は、九字を唱えながら、両手で手印を結ぶ、『剣印の法』
そして、手刀で空中に四縦五横の格子を描く、『破邪の法』


このふたつです。

破邪の法は、退魔を目的とした法です。
人差し指と中指の二本を刀に見立て格子を描く破邪の法ですが、この格子は1本1本が刃のネットのようなものを現していて、その中に侵入しようとした鬼や怨霊を、ばらばらに切り裂くという意味、そして実際にばらばらに切り裂いたという説が残っています。


言葉には力が宿る


呪文、成仏へと導くお経、おまじない、幸せになれる言葉、元気になれる一言、忘れられない言葉、そして思い出せば苦しくなる痛烈な発言。

そのようなことから考えても、ばらばらという表現が、決して大袈裟には思えません。


それほどまでに言葉には「力」があるからです。

呪文の番外編として、陰陽師が毎朝、朝日に向かって唱えていたとされる呪文、というよりは言葉の呪符のようなものがあります。


呪符
種々の災難をしりぞけ、幸いをもたらす、言葉のお守り・言霊の守護神です。

『元柱固具、八隅八気、五陽五神、陽動二衝厳神、害気を攘払し、四柱神を鎮護し、五神開衢、悪鬼を逐い、奇動霊光四隅に衝徹し、元柱固具、安鎮を得んことを、慎みて五陽霊神に願い奉る』

(がんちゅうこしん、はちぐうはつき、ごようごしん、おんみょうにしょうげんしん、がいきをゆずりはらいし、しちゅうしんをちんごし、ごしんかいえい、あっきをはらい、きどうれいこうしぐうにしょうてつし、がんちゅうこしん、あんちんをえんことを、つとみてごようれいしんにねがいたてまつる)』


これは、


『元柱固具 ~ 害気を攘払し』 で自らの生活環境などを正し、


『四柱神を鎮護し ~ 奇動霊光四隅に衝徹し』で、四柱神の加護により周囲との聖別

『元柱固具 ~ 慎みて五陽霊神に願い奉る』で最後に五陽霊神に願いをたてまつる。

という意味を持っています。
毎朝唱えることが、今風で言えば陰陽師のルーチンであり、これを発することで自らを統制・管理していました。
呪術は、その名の通り、呪う術であり、受け身ではなく、攻撃的なものです。

西洋魔術で言うところの、聖なる白魔術に対しての、悪の黒魔術のような位置です。
占術より護身術より、「攻撃的な呪術」「オカルト的・妖術的」という印象が強い陰陽師のキーワードです。

もともと呪術は、呪禁師(じゅごんし)が行っていた仕事でした。


呪禁師とは典薬寮(てんやくりょう:医療・調薬を担当する部署)に属した官人で、呪術によって病気の原因となる邪気を祓う治療などを行っていました。


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ですが、その呪禁師が廃止になったことにより、この仕事が陰陽師のいる陰陽寮が受け継ぐかたちになったのです。


呪術は呪文同様、道教、密教、修験道のものをそのまま流用するか、それらを組み合わせたものです。

そんな数ある呪術の中から、先ずは特に有名なものをみっつ、そして最も謎とされるもの・神秘的なものをひとつ、そして霊府と呼ばれる今で言うお守りのようなものをひとつご紹介します。


形代・人形、あるいは撫物(なでもの)など呼び方はいろいろとありますが、木、草、葉、藁などで人の形を作り、呪詛(呪い)の対象とし、それに害を与える陰陽道の基本的な呪術です。


多分、「もしかして」と思った方もおられると思いますが、日本で最も有名な呪いの方法、藁で作った人形に釘を刺して恨みを晴らす、『藁人形による丑の刻参り』と同類です。


もちろん藁に限らず、上記で書いたように他のものでも代用はでき、そこに呪いをかけ、相手を苦しめることが陰陽師はできました。

また相手の生活圏内に呪いのかかったものを隠し置き、悪気を放って、怪我や病気へと導くという方法も修得していました。


ここでは呪術(攻撃的なもの)ということでご説明していますが、病気や怪我、または呪いを受けた時に、それを人形に移して祓う、燃やす、川や海に流すといった、つまり善い意味、違ったかたちで形代・人形を用いる場合もありました。

また、身固(みがため)と呼ばれるものは、要人の御衣に呪術をほどこし(エネルギーを込め)、まさに身固め、バリア的な存在に変えていたともされています。


形代・人形が連想できる「藁人形」、そして「流し雛」も、どちらも今も残っているので、決して、「霊的なもの=うさんくさいもの」と片付けられない何らかの力が確実にあった、ある、と言えるでしょう。

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蠱毒(こどく)

蠱道(こどう)、蠱術(こじゅつ)、巫蠱(ふこ)などとも呼ばれています。

壺などの器の中に、ヘビ、ムカデ、ゲジゲジ、カエルなどの百虫を閉じ込め、互いに共食いをさせて勝ち残ったものを「神霊」として祀り、その毒を採取して呪詛(呪い)の対象者に飲ませ、害を与えたり、死に至らしめたり、福来を図ったりしていました。

蠱毒を利用して毒殺し、その人の役職や遺産などを奪っていたので、これは呪術と言うより暗殺ですね。ですが、「毒」を使用する前に、手間暇掛けた恨み辛みを込めた作業が絡んでいるので、呪術大成、すなわち成功への見えない力(邪心)が宿っていると言えるでしょう。

蠱毒の呪術は、貴族たちが私利私欲のために利用したため、幾度も使用禁止令が発布されるほどで、つまり凄い成功率でした。

呪術を専門とした呪禁師(官人)が廃止されたのも、蠱毒が1番の原因なのでは? とする説もあるほどです。

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